「選択的夫婦別姓」が導入された場合のこと、社労士の立場からの所感
KOYAMA社会保険労務士法人東京事務所の小山です。
ここ最近、「選択的夫婦別姓」をめぐる法制化への議論が活発化しています。国会では、与野党の協議が進む中、推進派の政党やグループと、根強く反対の意向を示す政党、グループがあり、議論が二分されています。今後どのように決着していくのか、国民の一人として、多大な関心事をもって見守っていくことになるでしょう。
そもそも、この「選択的夫婦別姓」とは何か。「選択的夫婦別氏(うじ)制度」と言うのが法令的には、正確な言い方のようですが、夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度のことを言います。現在の民法のもとでは、結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が、必ず氏を改めなければなりません。そして、現実的には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数であるのが現状と言えますが、女性の社会進出等に伴い、改氏による職業生活上や日常生活上の不便・不利益、アイデンティティの喪失など様々な不便・不利益が指摘されてきたことなどを背景に、「選択的夫婦別姓」の導入を求める意見が活発化してきているようです。
この制度の賛否についてのコメントは避けるとしまして、「選択的夫婦別姓」が導入された場合、何が変わってくるのか、社会保険労務士の立場から、コメントできればと思います。
「選択的夫婦別姓」が導入されることで、企業の労務管理や社会保険の手続きに影響が出ることは必定です。社会保険労務士として関与する領域でのことを挙げれば、以下のようなことが想定されるでしょう。
- 企業の人事・労務管理における氏名管理の変更への対応
具体的には、給与システムや社内名簿の更新、社内文書としての労働契約書や就業規則など各種規程の記載方法の見直しが必要になるでしょう。また、旧姓使用を希望する従業員の取り扱い(現在も旧姓使用は可能ですが、制度として明確化されるため)で、社会保険手続き時の実務対応が求められると予想されます。 - 社会保険・税関連の手続きへの対応
別姓選択者が増えることで、今後の氏名変更手続きは簡素化すると予想されます。一方で、既に改姓した人が旧姓使用する場合の申請手続きが煩雑になると予想されますので、そのための手続きやシステムの整備が必要になるでしょう。マイナンバーと住民基本台帳との連携も然りと考えます。 - 行政手続きの整備への対応
社会保険や税の手続きで配偶者の姓が異なる場合の処理方法の変更や、子供の姓が異なる場合、家族関係の証明書類の扱いについて、手続きが煩雑になるのかと思われます。
以上、想定されることを列挙しましたが、他にも私たちが関与する業務で、起こりうることはあるでしょう。
「選択的夫婦別姓」の導入は、個人の自由や社会の公平性を尊重しつつも、行政手続きや、企業の労務管理にも大きな影響を与える可能性があります。私たち社会保険労務士としては、その過程での企業の実務対応をサポートする役割が重要かと考えます。もし、この制度が導入されれば、企業の人事・労務管理における氏名管理変更への対応、社会保険手続きへの対応、行政手続きの整備への対応といった側面で、追随するシステムとの連携を視野に、実務面での私たちの力量が、より求められるでしょう。
「選択的夫婦別姓」の導入の可否は、今後の国会での議論に委ねられますが、この件に限らず、私たちは社会保険労務士は、あらゆる法改正の動向を注視しつつ、企業や個人にとって最適な制度運用をサポートすることで、その存在価値が発揮できるのだと思います。