障害者法定雇用率と雇用の実情

KOYAMA社会保険労務士法人 東京事務所の菊馬です。

 

厚生労働省が公表している全国在宅障害児・者等実態調査における令和4年調査によると、身体障害者手帳所持者は約415.9万人で前回調査(平成28年)と比べて大きな変動はなく対前回比で97%とむしろ減少しています。一方、精神障害者保健福祉手帳所持者は約120.3万人と急増し、前回比では143%に達しています。障害者全体の増加の大部分を占めているのが精神障害者であるという構造は、今後の企業の雇用戦略に大きな影響を与えるものと思えます。

 

民間企業の障害者法定雇用率は令和8年7月に2.7%へと引き上げられますが、身体障害者数に変わりがない現状では、法定雇用率を達成しようとする際、精神障害者の採用を視野に入れざるを得ない企業が今後は増えていくと思われます。しかし、精神障害者は身体障害者に比べて職場定着率が低く、周囲からは状況が分かりにくかったりと、サポートの仕組みづくりに頭を悩ませる企業も少なくありません。結果として、採用自体を慎重に考えざるを得ないという声もよく聞かれます。

 

とはいえ、今後の雇用率引上げを踏まえると、精神障害者雇用への理解と環境整備は避けて通れません。障害者雇用の量的拡大だけでなく、受け入れ体制や職場環境の整備が追いつかなければ、法定雇用率の更なる引き上げが企業経営に少なからず負担をもたらすのは確実です。法定雇用率だけが先に進み、受け皿となる企業側の実情が置き去りにならないよう、制度そのものの在り方も見直しが必要なんじゃないかと思ったりもします。