最低賃金引上げの背景について
KOYAMA社会保険労務士法人 東京事務所の小山です。
前回(8/30)に引き続き、いよいよ10月に迫った最低賃金引き上げについて、私なりの考察をコメントします。
前回のブログでは、政府が主導する最低賃金の引き上げの背景には...
我が国が30年来にわたり、先進諸国との賃金差に溝を空けられている状況があり、その要因として、国際的にみて、労働生産性が「低い」と評される結果があり、労働者一人当たりが稼ぐ「お金」の額が、日本は低く、それが各国との賃金差にもつながっていること、その解決策として、国全体で、労働生産性を高めること、つまり、一人一人が稼ぐ「お金」の額を増やしていくことが求められている旨をコメントしました。
今回は、欧米型の「同一労働同一賃金」を基本に据えた職種別労働市場への移行を、国全体として、目指していることが、賃金の引き上げのバックグラウンドにあることをコメント出来ればと思います。
欧米の労働市場は、主として、個々の職務ごとに賃金が定められた職種別労働市場であり、同一の職種に対する賃金相場が企業横断的に形成されていると言われています。
一方、日本の労働市場は、企業別労働市場であり、欧米のように、一職種に対して企業横断的に賃金水準を定める仕組みがありません。
これは、私の私見ではありますが、「同一労働同一賃金」を基本に据えた職種別労働市場とは、ある意味で、市場に並ぶ商品のように、職種ごとの人材価値に対する値付けをはっきりさせて、より市場価値が高い人材の労働移動を活発化させることだと考えます。結果として、市場原理が働いて、賃金水準が引きあがってゆくことを、国としては、目指しているのではないでしょうか。
しかし、その通りにいくのでしょうか。
日本では、高度経済成長期から培われた『年功序列』や『終身雇用』に代表される日本型雇用システムが、大企業を中心に現在も維持されています。また、会社の都合によりどんな部署や職種にも対応する包括的な働き方が長年求められてきました。これは、日本人が大切してきた組織への忠誠心や、勤勉性など、古くから培われてきた日本人独特の気質や文化がもたらしたものではないかと私は考えています。
法律として、制度として、「同一労働同一賃金」といったハコものを当てはめようとしても、気質や文化に根ざした雇用慣行が、大きく変わってゆくとはなかなか思えません。
しかし、これまでの日本型雇用システムでは、現在の緩やかな経済成長の中では、欧米並みに賃金を引き上げることは到底不可能と言われています。
では、どうすればいいのか。その解決策を一筋縄に論ずることは難しいでしょう。
私が考えるに、日本の雇用慣行のよい面を生かしながら、欧米型の労働市場の原理をうまく取り入れ、それを、世界標準の働き方に変えていけるような、新たな雇用システムを形作ることが、私たちの課題であると言えるのではないでしょうか。結果として、労働市場が活性化し、賃金水準が引きあがってゆくことを期待したいものです。
今回は、ここ数年の最低賃金の大幅な引上げの背景として、欧米型の「同一労働同一賃金」を基本に据えた職種別労働市場への移行を、国全体として、目指していることがあると、私見を踏まえてコメントしました。
さて、いよいよ、最低賃金が引き上がる10月になります。
賃金引き上げの背景は別として、皆さんたちの会社では、その対策は進んでいると思います。前述しました通り、今後の賃金水準の引上げを踏まえて、「業務改善助成金」を活用することをお勧めします。令和6年度の制度は明年1月には事業実施期間が終了となりますが、次年度も同様の助成金は続く予定です。ここでは詳しい説明は省きますが、申請をご検討されるようでしたら、当法人に是非ご相談ください。