「年収の壁103万円」の引き上げについて、私の所感

KOYAMA社会保険労務士法人東京事務所の小山です。

先の衆院選で、ある野党の政権公約として掲げられた「年収の壁103万円」を引き上げる案が、にわかに脚光をあびています。

 

これは、所得税の控除額を103万円から178万円に引き上げるもので、同党の党首からは、「年末に政府・与党がまとめる税制改正に反映させたい」との考えが示されています。

 

この「年収の壁103万円」について少し補足しますと、年間の給与収入から所得税を算出する際に、「基礎控除」48万円、「給与所得控除」55万円を引き、残った金額に所得税率を掛けて算出しますが、この「基礎控除」48万円+「給与所得控除」55万円=103万円を超えると、所得税が課税されることを、一般的には「103万円の壁」と言っています。

年末調整が始まろうとしているこの時期、最も話題になるのは、やはり、パートタイムなどの収入が103万円を超えるかという「103万円の壁」のことになりますね。

 

税制に関わる年収の壁としては、他にも、「150万円の壁(配偶者特別控除が満額(38万円)適用できなくなり、以降、パートタイム労働者の収入によって徐々に減額)」、「201万円の壁(配偶者特別控除の対象ではなくなる)」があります。また、社会保険に関わる年収の壁として、「106万円の壁(「特定適用事業所」における短時間労働者への社会保険適用)」、「130万円の壁(全事業所における適用要件を満たす労働者への社会保険適用)」もあります。

 

壁が多すぎて、少し混乱しがちではありますが、今回話題となっている「年収の壁103万円」の引き上げは、前述のとおり、所得税の控除額を103万円から178万円に引き上げる案で、控除の内訳についての具体案まではまだ出ていないようです。

しかし、控除額が引き上げられることで、年間103万円超から178万円までの年収に対する所得税の支払いを免れることができるため、手取り収入が増えることになり、パートタイム労働者等にとっては、これまでの収入枠を超えて働く可能性が拡がることになるでしょう。また、パートタイム労働者以外の働き手にとっても、手取り収入としての恩恵を受けることになると考えられます。

 

この案が実現できれば、画期な施策と言えますが、一方で、社会保険に関わる「年収の壁」は、令和6年10月から短時間労働者への加入要件が拡大され、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者は社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象となったばかりです。現行の政府の見込みとして、将来的には、短時間労働者の社会保険の加入要件を、51人以上の企業等から、全ての企業等で働く短時間労働者に課すことを想定していると、噂には聞き及んでいます。

 

このように、税制の壁は引き上がるが、社会保険の壁は厳格化されるという、一見、ミスマッチな方向性についても、税制改正の議論に反映させるべきではないかと、私見としては考えます。

 

勿論、税制度と社会保険制度とでは、目的や仕組みが異なるため、一つにまとめて議論することは、難しいとは思います。しかし、多くの中小企業主や働く側の立場としては、「負担の増減」に関わることは、制度は違えども同じ感覚で捉えることが多いように感じています。

 

結局、「所得税は下がったけど、それ以上に、社会保険料が取られた」のようなことにならないよう、社会保険制度の更なる充実や、一層の利用者への還元などの施策を、税制改正の議論を機に期待したいものです。