スポーツ選手の災害補償

KOYAMA社会保険労務士法人東京事務所の小山です。

連日、熱戦が繰り広げられるパリオリンピック2024。勝者と敗者の感情が様々に折り重なり合う試合の場面を見るにつけ、私たちが生きる「今」の現実と闘う勇気を獲る思いでもあります。

さて、このスポーツの祭典であるオリンピック大会の各種競技。肉体をこれほどまでに酷使するスポーツ競技にあって、また、国家の威信と自国民の期待を一身に担う選手達に起こりうる試合や練習中の事故について、どこまでの補償制度が公的に担保されているのか、職業柄でしょうか、気になったので、日本の制度の範疇で、改めて調べてみました。

まず、公的な補償制度と言えば、「労働者災害補償保険」(以下「労災保険」)がありますが、この労災保険は、業務上または通勤上の災害(負傷、疾病、障害または死亡)を遭った労働者を保護するために設けられている公的な保険です。労災保険は政府が運営しているため、確実に補償を受けることができるわけですが、オリンピック選手が、運動競技の試合中・練習中に被災した事故に適用されるのでしょうか?これは、オリンピック選手が被災した事故が、「労働者」としての勤務時間中であって、且つ、賃金が支払われているかがポイントになります。そのうえで、参加した運動競技が労働者としての「業務行為」として行われ、且つ、その事故が参加した運動競技に起因するものである場合は、「業務上」として認められます。業務上であるための詳しい事例はここでは省きますが、労災保険は、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要素で判断されるわけです。しかしながら、プロ野球選手やJリーガーなどの「プロスポーツ選手」は、労災保険の適用を受ける労働者に当たらないとされていますので、企業スポーツ選手であることが前提になります。所謂、「実業団」に所属する選手です。例えば、この度金メダル2連覇を果たした阿部一二三選手は、パーク24という実業団に所属する選手です。

では、実業団に所属していないアマチュア選手たちは、何ら補償されていないのでしょうか。

オリンピックを含めた、海外における諸試合では、大会毎に指定された金額の「有効な第三者賠償責任保険」に加入し、保険証券を提示する事が義務付けられているようです。つまり、公的な補償制度ではなく、民間の第三者賠償責任保険において、補償がなされるというのが実態なのでしょう。しかし、どうもこれも、生じた事故の「加害性」などによって補償内容が変わってきますので、全ての事故に担保されるかは何とも言えないようです。ですので、スポーツ中の事故は広く言えば自己責任であって、それは参加する競技大会の規模や国際性の如何にかかわらず、原理原則となっていると言えるのでしょう。

以前に、私がご相談を受けたある事案で、クラブ活動的なスポーツ活動中に起きた事故のことがあり、これが、勤務時間と勤務終了後の時間のはざまで微妙だったこともあって、労働基準監督署に、労災の適用対象となりうるか確認したことありましたが、その時は、「業務起因性」が認めれないとして、あっさり却下されたことがありました。

実業団に所属する選手のように、参加する運動競技が労働者としての「業務行為」であることが立証できうる選手であれば労災保険が適用され、より確実に補償を受けることが可能と言えるわけですが、そうでない場合は、スポーツ参加は、あくまで自己責任であって、その自己責任の原理原則に基づく補償範囲であり、それは、オリンピックのような国際的大会であっても、同じであると言えるのでしょう。

熱戦が繰り広げられるパリオリンピック2024をテレビで観戦しながら、重大な事故が起こらないことを祈る昨今であります。